Nikkor-S Auto 5.8cm F1.4とは
Nikkor-S Auto 5.8cm F1.4は、1960年代に登場した大口径の標準レンズです。
焦点距離は58mm、開放F値は1.4。現在の50mm F1.4や58mm F1.4とは違い、初期の大口径標準レンズとして独特の写りを持っています。
このレンズは、ニコンFマウント初期の時代に設計されており、クラシックな描写や柔らかいボケが魅力です。
外観とスペック

- 発売年:1960年代前半
- マウント:ニコンFマウント
- 焦点距離:58mm
- 開放F値:F1.4
- 最短撮影距離:0.6m
- 絞り羽根:6枚
外観はクロームとブラックの組み合わせが多く、クラシカルな雰囲気。
所有するだけで「オールドニッコールらしさ」を感じられる一本です。
写りの特徴

柔らかい開放描写
F1.4開放では、コントラストが低めで柔らかい描写になります。ポートレートやスナップでは独特の「滲み」が雰囲気を作ってくれます。
ボケの独特さ
58mmという少し長めの標準レンズなので、背景のボケがやわらかく、立体感を感じやすいのがポイントです。
絞ればシャープに
F2.8以降に絞ると、クラシックレンズらしからぬシャープさが現れ、風景撮影にも十分使えます。
5.8cmになった理由

① ミラーボックスのクリアランス確保
当時のNikon F(1959年発売)の一眼レフ構造は、まだ設計が固まっていない時代でした。
標準レンズを「50mm F1.4」で設計しようとすると、バックフォーカス(後玉からフィルムまでの距離)が短すぎて、ミラーボックスに干渉してしまう可能性があったんです。
そこで、少し焦点距離を長くした 58mm にすることで、
- 設計上の余裕を持たせる
- 後玉を小さくし、ミラー干渉を避ける
ことができました。
② 描写性能を優先した設計
当時の光学技術では、開放F1.4という大口径を「50mm」で高性能にまとめるのはかなり難しい状況でした。
58mmにすることで
- 球面収差の補正がしやすい
- 開放でもそこそこ使える描写を確保できる
というメリットがありました。
③ 競合との差別化
ライカやキヤノンなどは「50mm F1.4」を主力にしていました。
ニコンとしては、少し長めの58mmを採用することで、独自性をアピールする意味合いもあったといわれています。
その後の流れ
- 1960年代前半:Nikkor-S Auto 5.8cm F1.4(初期標準大口径レンズ)
- その後:光学技術の進歩により「50mm F1.4」が実現し、5.8cmは短命に
- 現代:AF-S NIKKOR 58mm F1.4G(2013年発売)として、再び“58mm”が象徴的な存在に
つまり、「当時の技術的な制約とニコンの設計思想」が5.8cmという焦点距離を生んだわけです。
デジタルカメラでの使用

Nikkor-S Auto 5.8cm F1.4はニコンFマウントレンズなので、マウントアダプターを使えばミラーレス機でも使用可能です。
- Nikon Zシリーズ → FTZアダプター
- Sony EマウントやCanon Rマウント → サードパーティ製アダプター
オールドレンズらしい描写をデジタルで楽しめるのも、このレンズの魅力です。
作例





まとめ
Nikkor-S Auto 5.8cm F1.4は、
- 柔らかい描写と独特のボケ
- クラシックなデザイン
- デジタルでも楽しめる汎用性
を兼ね備えた名レンズです。
現代のレンズでは味わえない「オールドニッコールの世界」を体験したい人におすすめです。
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